BETTAKO -其の146-

時折小雨降る、火曜日だった。
大小の細かく建ち並ぶ店達の一角街に、
45年間商う大御所焼酎屋の木戸を開けた。
ブームという流行りに乗らず逆らわず
独特の空間の中で営む酒場が、都内には数店
昭和の時代から佇んでいる。
焼酎というニッポン蒸溜酒に、誰も見向きも
しなかった時代から商い続けた、歴史ある酒場で
燗と湯割を堪能させて頂いた。

それは焼酎という単なる酒ではなく、
経験の賜物で仕上げられた味わいを表現できる
酒場は都内において、貴重な存在である。

猪口をコトン♪と置き。
不躾ですみません。最近の焼酎は…と、
昭和から平成、令和の時代へと、各時代に
織り成された焼酎に対し、主人とお互い思い
そしてと重厚なまでの話を重ねて頂いた。

あと数年頑張らなきゃね。そう優しい笑顔で
僕に応えてくれたその顔は、多くの苦労も
全てを背負い、この歴史を作ってきた事を
カウンター越しと自家製の柚餅子が
物語って思えた。

古い歴史と物語を持つ建屋は、止むを得ぬ
理由で、一瞬にして微塵に壊すことができる。
しかし同じロケーションを完全に復元させる
という事は不可能に近い。
長い歴史で培った経験者ゆえの技やこの景色は
取り壊してほしくはない、そう温度が下がり、
甘味を膨らませた、小鹿を啜りながら、
そう思った夜でもある。

ブームという波は大小問わず訪れる。
傲慢と主権が織りなす、ドロドロとした酒業界。
酒蔵も波にもまれ、飲食店も波にもまれる。
その波にもまれて飲み込まれない、一部の
強者が生き残れる世界でもある。

食に力を入れている飲食店は確かに多い。
酒の知識を持つ者も確かに多い。
しかし…。
酒本来の本質と性質を、見抜く技を持つ店は
似たり寄ったりな、真似モノ屋が建ち並ぶ、
街の一画に、目立たずひっそりと紛れ、
溶け込んでいる。

焼酎が売れないのではない。
先々のビジョンを設け、4次元で表現できる、
イマジネーション豊かな、人材育成に対しての
プログラムを怠ったゆえの結果である。
知識や資格は、蔵と仲良くなるのは、ただの
自己満足の一角にしか過ぎない。
黙し酒瓶の性格を引き出す、これこそが
酒を扱う場所の酒場である。

木戸を閉め、小雨止んだ路面は、多くのネオン
という明かりで、光放っている。
ありがたい…この店の歴史に触れられた事、
この主人と話せた事は、その節々の会話は
自身として、そしてBETTAKOとして忘れる
ことはないだろう。

酒場BETTAKO

昭和56年創業。池袋東口で長きに渡り営み続けてきたBETTAKOは2017年12月に一度幕を下ろし、2018年2月JR板橋駅東口徒歩3分程、滝野川の路地裏で、本格焼酎・樽生ホッピー・数種の日本酒、日替り献立と共に静かに商わせて頂いております。尚、同じ屋号の酒場が御座いますが、当店とは無関係の酒場で御座います。店主敬具