酒縁ノ物語 -其の02-

-酒縁ノ物語-のつづきを綴る筈が、
だいぶ月日が経ってしまった。

さてと…。
事前リサーチした飲み屋数軒の明かりは、
灯されぬまま時間だけが過ぎていった
日曜日の17時30分。

出雲市駅北口周辺、意を決し明かりが
灯されている居酒屋の引き戸を開けた。
案内された客席は個室。
席に腰を下ろし、喉の渇きを潤す麦酒を
待つ間、個室の壁を越え、家族連れの
小さい子供達がはしゃぐ声、老若男女問わず、
地元の人達の笑い声が店内に響き渡っていた。

正解だったかもしれない。
刺身五種盛り、ぼっか姿揚げ、赤天…など
6種ほどの酒のアテを注文させて頂いた。
ぼっかとは…かさごを意味する島根の方言
だと、私の愛娘程の明るいアルバイトの
娘から教えて頂いた。

さて…喉も潤い。酒のメニューに目を通す。
ん?たたら?島根の芋焼酎。
注文する度に人を呼ぶのは性に合わない、
性格なのだろう…、たたら芋焼酎を頼みつつ、
レモンサワーも注文させて頂いた。

たたら黒麹。
何も言わずにロックで運ばれてきた。
ゆっくりと舌の上で、たたら黒麹の味わいを
探ってみる。
原材料のさつまいもは、紅系特有の成分、
アントシアニンを微かに拾う。微かに…
というのは、常圧蒸留ならば原材料の風味や
麹の種別、酵母などが判るのだが、
たたら黒麹は、減圧蒸溜の芋焼酎でもあり、
清涼な貴賓に満ちた味わいの中に、黒麹特有の
コクと風味が微かに漂うご当地芋焼酎でもある。

たたらとは?
島根県東部の出雲地方において、
たたら製鉄繁栄の土地でもある。
それは約1400年前から、たたら製鉄と呼ばれ、
砂鉄と木炭を用いる鉄づくりが盛んに
行われていた歴史がこの出雲にはある。

たたら黒麹を味わいを探り終え、島根に
来たのだから…と、数種の日本酒を嗜む。
冷蔵された銘柄達を、味わいながら、
手の温もりで、銘柄達の素顔を探る。
赤天をツマミに杯は進んでゆくが…、
妻の次へ…という言葉は、ようやく
エンジンがかかり始めたところではあるが、

地元客、そして子供達の笑う声で賑わう店内、
うるさく感じるどころか、逆にその笑い声達で
緊張の糸が少し緩んだのだろう…。
ご馳走様でした…そして次のお店に向かった。

【酒縁ノ物語】…次号はつづく


酒場BETTAKO

昭和56年創業。池袋東口で長きに渡り営み続けてきたBETTAKOは2017年12月に一度幕を下ろし、2018年2月JR板橋駅東口徒歩3分程、滝野川の路地裏で、本格焼酎・樽生ホッピー・数種の日本酒、日替り献立と共に静かに商わせて頂いております。尚、同じ屋号の酒場が御座いますが、当店とは無関係の酒場で御座います。店主敬具